恋愛セミナー47【幻】第四十一帖 <幻 まぼろし> あらすじ源氏の紫の上を亡くした悲しみは癒えることがありません。 幾多の色恋沙汰で悩ませてしまったことを悔やみ、女房達からも紫の上の苦悩を聞かされる源氏。 せめて夢でも会うことができたら、と夜もすがら思い続けています。 以前より紫の上に仕えていた女房の何人かと、源氏は密かに関係を持っていました。 中でも中将の君とよばれる女房は、紫の上にとりわけ可愛がられていたので、形見にも思い、そばに置いています。 六条院の女性たちのもとにはほとんど足をむけることはありません。 明石の中宮の生んだ三宮は、紫の上の遺言どおり、六条院の桜や梅を大切に思っていました。 桜を散らせまいと、周りを几帳で囲みたいという三宮に「空を覆う袖が欲しいという歌よりも賢いお考えですね。」と応え 「私も宮様にお会いできなくなることでしょう。」と伝える源氏。 「お祖母さまと同じことを。」と三宮は涙ぐみます。 久しぶりに女三宮を訪ねると仏道修行になんの憂いもなく励んでいる様子。 出家を心から望んでいたとも思えない人にも越えられてしまったと源氏は侘しく思います。 明石の君のもとへも行き、しみじみとした話を交わしますが、もう泊まることはないのでした。 夏になり花散里から衣替えの衣装と歌が届きます。 「夏の衣にかえる今日は亡き人への思いがつのることでしょう。」 「羽のような薄い衣にかえる今日は蝉の抜け殻のような儚い世の中がことに悲しい。」と返す源氏。 賀茂の祭りの賑わいも、女房たちには楽しませ、源氏は中将の君と屋敷に引きこもっています。 梅雨の晴れ間が続く頃、夕霧がやってきて紫の上の一周忌についてほのめかします。 夕霧が万事行き届いていることや、子宝に恵まれていることを頼もしく思う源氏。 いまだ悲しみに惑っている源氏を心配し、夕霧は時折泊まってゆきます。 源氏の寝所のそばに横たわる夕霧も、亡き紫の上のことを思い出すのでした。 七夕の頃も、宴を催すことはありません。 星を見ても蛍を見ても、源氏は亡き人を偲ぶ歌が浮かびます。 八月の命日には、紫の上の用意してあった曼荼羅を供養しました。 菊の季節である九月も、時雨の降る十月も、ただ涙がちに過ごす源氏。 十一月は五節の舞があります。 夕霧の幼い息子たちも宮廷に仕える童殿上(わらわてんじょう)をすることになり、源氏に挨拶にやってきました。 源氏は世間の浮かれた雰囲気からすっかり遠ざかった自分を感じています。 一年がたち、いよいよ源氏は出家のために形見わけや身の回りの品を処分し始めます。 いま書いたばかりのような数々の恋文も女房たちに破らせる源氏。 とりわけ紫の上の須磨への文を目にすると、ただ涙が溢れてとまりませんが、 「紫の上の荼毘の煙と供にあるように。」と書き添えて、全て燃やしてしまいました。 十二月、仏名会(ぶつみょうえ 仏の名を唱えてその年の罪を清める。)を、源氏はこれが最後と営みます。 僧が長寿を願うのも、仏がどう思うかと恥じる源氏。 今年は音楽も宴もなく、ただ歌を披露するにとどめます。 この一年、人にほとんど姿を見せなかった源氏は、久しぶりに表にでました。 その美しさは、昔、光る源氏と言われた頃よりもさらに輝き、僧も涙するほどです。 幼い三宮が「鬼をはらわなくては。」とはしゃぐ姿も、もう見納めかと思います。 「思い悩み月日がたつのを知らないうちに、この年もわが人生も今日で尽きてしまうのか。」 正月の準備を、今年は特に入念にさせる源氏なのでした。 恋愛セミナー46 1 源氏と女性たち この命尽きるとき 源氏の華やかな生涯の最後の一年です。 ただただ涙に暮れ惑い、愛妻のよすがにすがり、悔い続ける日々。 世の栄光も、美貌も才能も、全てを兼ね備えた源氏。 この光りに添った輝く存在であった紫の上、そして幾多の女性たち。 恋の相手として、苛まれることこともあった女性の多くが、 恋を味わいつくした後、源氏から飛び立ってゆきました。 女性の持つ、母体としての性。 命の温床を育み、手放す過程を生涯のうちに数百回繰りかえす女性は 身を賭して惜しまず与えることに知らずに向かってしまうのでしょうか。 ひらすらに恋を貪ってきた源氏。 Catch and Rereaseを美しくできるかどうかが、恋と人生の上級者への道。 ただ捕えるだけで、手放すタイミングを逃し、恋を蒐集するに留まった源氏の姿を、 あなたはどう思われるでしょう。 幻の世を美しく生きると思いさだめて。 |